社会政策学会 談話室




斎藤悦子

社会政策学会第104回大会に参加して



  社会政策学会第104回大会が、5月25日(土)、26日(日)に日本女子大学目白キャンパスにおいて開催され、本研究会の会員の多くと会場でお会いした。今回の共通論題は「雇用関係の変貌 ── 雇用形態の多様化と時間管理の変化 ── 」であり、雇用関係を時間・場所の支配の程度から検討するといった試みがなされ、雇用形態として増大しているパート労働や派遣労働といった非正規雇用について白熱した議論が行われた。この共通論題とリンクして、学会のジェンダー部会と非定型労働部会による分科会が「派遣労働の今日的課題」というテーマで開かれ、女性労働者の立場やジェンダー問題にひきつけた詳細でホットな報告が行われた。ここでは、この分科会における報告と議論についてご紹介したいと思う。

  分科会は座長が永山利和氏(日本大学)、コーディネータは竹内敬子氏(成蹊大学)であり、チャールズ・ウェザーズ氏(大阪市立大学)、藤井とよみ氏(女性東京ユニオン)、伍賀一道氏(金沢大学)の三者による報告が行われた。第一報告のチャールズ・ウェザーズ氏は「日本のホワイトカラー職場の変容 ── 女性派遣労働者に対する影響」という題で、派遣会社のマネージャーとのインタビュー調査結果から、女性派遣労働者に対する年齢差別、セクシュアルハラスメント、事前面接の実態を明らかにした。
 第二報告は藤井とよみ氏で「現行派遣法の問題点と派遣労働者の権利 ── 均等待遇の可能性を探る」というテーマで、派遣労働者としての自らの経験やユニオンでの活動を現行派遣法に照らしながら報告をされた。前日の共通論題で中野麻美氏(弁護士)が「労働者派遣の拡大と労働法」について報告されており、そこで問題視された対象業務の原則自由化がいかに派遣労働者の権利を奪うものであるかを、ユニオンの対処方法とともに具体的に迫力を持って語られた。ユニオンの対処によって解決されたケースでは、諦めずに声をあげることに意味あることを証明し、そのために派遣労働者を主体とした労働組合の結成や長期的な組合員活動が必要であることを強く訴えるものであった。
 最後の報告者であった伍賀一道氏は「雇用・失業政策の展開と今日の派遣労働」について報告された。先の二つの報告を総括するごとく派遣労働の特徴と政策の変遷を示された後、ジェンダー視点からみた派遣労働の問題を4点あげられた。なかでも「human skills にひそむジェンダー」の発見は鋭い指摘であったと思う。「human skills」とは派遣先の雰囲気にあわせ派遣先の正社員との人間関係をうまく処理する能力、いわゆるコミュニケーション能力であるという。派遣先で求められる仕事が一般職に近づけば近づくほど、この「human skills」は「気遣い」や「細やかさ」といった女性らしい振る舞いに転じる。このような「human skills」が職場内で強制されることが、禁止されているはずの事前面接やジェンダー差別を生む土壌となっていることが明確になった。さらに、派遣労働者と派遣先同種労働者の均等待遇については、その前提として派遣先企業の男女同一賃金が果たされていなければならないことをあらためて強調された。派遣であれ、正規であれ女性労働者は労働条件のジェンダー格差といった共通の問題を抱えているのだ。問題解決を促す取り組みとして、ILOの「労働における基本原則・権利宣言」(1998)「好ましい仕事(ディーセント・ワーク)の創出」(1999)、EUの非正規雇用の保護政策にふれられた。

  議論の中心は、派遣労働者の均等待遇をいかに実現するか、グローバリゼーションが進行する中で市場原理に打ち克つことは可能かといった問題であった。藤井氏は派遣労働者自身が情報を得て、今までの経験に学び、問題解決の力を身に付けることの重要性を強調された。伍賀氏はグローバリゼーションへの対抗を意識したILOの取り組みについて述べられた。終了時間を超えても、会場には多くの質問や意見があふれており、もう少しこの議論を深めたいと誰もが考えていたと思う。
幸いにも、本研究会の第17回女性労働セミナーのテーマは、「女性と男性のサスティナブル(持続可能)な働き方 ── ディーセント・ワークは新しいグローバル経済の中で実現可能か?── 」である。今回の分科会でより深く議論したいと考えた問題がテーマとなっている。議論の続きが夏のセミナーで再開されることが楽しみである。



〔2002年11月12日掲載〕



 本稿は、岐阜経済大学の斎藤悦子会員が女性労働問題研究会 の機関誌『女性労働研究』第42号(2002年7月15日刊)に寄稿されたものです。斎藤会員のご厚意で、本談話室への転載をお認めいただきました。


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